【梛文】#3 いじめ(ふつう)
いじめを受けていた。
相談できる人はいなかった。
いや、相談を試みたことが一度だけあった。
とある先生にいじめを受けていると相談した。
返された言葉は、「きちんと話し合ってみよう」だった。
どうやら、いじめられている私に問題があったようだ。
「なんとなく」だけを理由にいじめられていたが、私に非があったようだ。
いつになったら日本は、
いじめられている人に問題がある。
逃げれば解決できる。という思考を脱するのだろうか。
人はそう簡単には逃げられない。そんなこと誰でもわかるだろうに。
いつになったら日本は、
いじめている人に問題がある。
そういう人は精神的に不安定。そうした子たちを対象にカウンセリング等を行うようになるのか。
いじめられている人ではなく、
いじめている人が異常という事に、何故気づかないのだろう。
いじめている人を助けてあげれば、いじめられている人も救えることに、
何故気づかないのだろう。
そのくせ、皆一緒、皆一等賞をうたう人がいるのだから、不思議だ。
さて、先生に相談した話に戻ろう。
この世界には、話し合いをできない人がいる。
そのことを知らないでどうやら30年間も生きてきたらしい。
なんとおめでたい人なんだろうと思った。
綺麗ごとだけで物事を解決しようとする、純粋な人なんだなとも思った。
それ以上は、何も思わないようにした。
このことをきっかけに、自分を救えるのは自分しかいないことを学んだ。
親に相談しようとも思ったが、できなかった。
当時、父は荒れ、母は何度も家出していた。
そんな中、誰に相談すればよかったのだろうか。
とある日、我が家にパソコンなるものが届いた。
父が仕事で使うのだろう。
とある日、またいじめられて帰ってきた。
家には誰もいなかった。
同日、目の前にパソコンがあった。
両手の人差し指を使って、人生初、検索というものをしてみた。
同日、検索結果が出てきた。
いんたーねっととはすごいものだと感心しながら、検索結果を食い入るように見た。
同日、私の目の前には、
「自殺 やり方」という検索ワードと、
「死にたければ高いところからとべwww」という掲示板なるものがあった。
同日、遺書を書き、
15階建てマンションの最高階まで上り、
柵に足をかけて、とんでみようと思った。
どこかに行きたかった。
私を1人の凡人、そのように扱ってくれる世界へ行きたかった。
普通など分からないが、
世間一般的に言われる、普通の世界が欲しかった。
普通に家族団欒があって、普通に友達と遊んで、普通に生きたかった。
それだけだった。
ただ、私は普通の一部になりたかった。
同日、とぶことをやめた。
理由は2つ。
死ぬことが怖かったということと、この世に未練があったから。
死ぬことはやはり怖かった。
痛いのは嫌だし、死んで無になるのも嫌だった。
人は死のうと思っても、案外死ねないものなのだと学んだ。
この世に未練があった。
死のうと思ってようやくそのことに気づいた。
私は普通を全然経験できていない。
恋人だっていなかったし、テレビで放映されていたあの場所にも行きたかったし、
家族団欒もできていないし、親友と呼べる人物にも出会っていない。
未練たらたらだった。
だから、死ぬのはどうせ80年弱後に出来るから、
未練無くすぐらいには生きようかなと思った。
同日、疲れ果てて、気づいたら寝ていた。
不思議とぐっすり眠れたことを今でも覚えている。
翌日、良い朝だったことを覚えている。
相変わらず両親は不機嫌で、いじめは受けた。
それでも、とりあえず、生きようと思った。
「誰かが私の死を心から悲しんでくれる」
まずはそのぐらいになれるように、頑張って、生きようと思った。
私の人生は私のものである。
私の人生は、私が作り上げる。私はそれができる。
とりあえず、頑張って、普通を手に入れようと誓った。
それが私の生きる意味なのだと感じた。
「ふつう」はなんて幸せなのだろう。
その幸せを、私は渇望した。
まず、今の異常と言われてしまっている状況から脱する。
それが、いじめを受け、劣悪な家庭環境にいた、私の小さな目標だった。