【梛文】#7 君だけがいない道。
「別れよう」
彼女にそう言われた大学1年の春。
目の前にあった道が、突如歪んで見えたのを、今でも思い出す。
大学に入学して間もない頃だった。
皆浮かれ気分。勿論私も浮かれ気分。
そんな中、突如電話で言われた一言だった。
学内に笑顔という花が咲き乱れる中、私の涙という雨が降り、
より一層花を綺麗に咲かせてみせた。
辛かった。苦しかった。
それほど、本気で、「恋」というものをしていた。
皆が励ましてくれた。
徐々に、立ち上がり、前を向けるようになった。
前を見てみると、今までとは少し違う道があった。
景色も、匂いも、長さも、全部一緒。
でも、何かが大きく変わっていた。
何かが足りない予感がしていた。
分からないから、歩き始めた。
歩き始めると、すぐに気づいた。
君だけが、この道にいなかった。
横を見ると、いつも君がいる道。
私が笑うと、君の笑い声も聞こえた道。
一緒に生きていく未来が、たしかにその道にはあった。
でも、もう、ない。
私の前にある道から、君だけがいなくなった。
失ったものは、たった1つ。
その1つが、他のすべてより価値あるものと気づいたとき、
私は1人立ち止まり、道の真ん中で、泣いてみせた。
泣いたって、誰が通るわけでもない道なのに。
もうこの道に君はいない。
こんな道に価値はない。
ふと横を見ると、沢山の道があった。
その道を、新たに歩もうともした。
でも、私の頭がそれを拒否した。
ふと、後ろから声がしたような気がした。
振り返ると、私の後ろにも道があった。
今まで、私たちが2人で歩んできた道だった。
どこまでもどこまでも続く、長い長い道だった。
見ているだけで、幸せな気持ちになれる道だった。
私は、前を向きなおした。
横の道も、再度確認した。
私は、今いるこの道を、歩むことに決めた。
この道に、もう、君はいない。
それでも、後ろにある君と築いた道を、1人でも前に伸ばしたいと思った。
もし仮に、本当に仮に、君がこの道に帰りたくなったとき。
帰る道がないのは、寂しいと思う。
もしかしたら、歩んだ先の道で、君に出会えるかもしれない。
そんな言い訳をたくさん並べて、
私は、その道を地道に伸ばそうと誓った。
君が帰ってくるかもしれない、この1本の道を。
君はもう、別の道を歩いている。
そんなことは知っている。
私のいる道に、興味もない事だって知っている。
私だけが、未練を抱えていることだって、知っている。
それでも私は、1人でも、帰るはずのない君を、いつまでも待つと決めた。
私は歩き始める。
君と築いた、
君だけがいない道を。